休日の午後を楽しむ明日館コンサート
ヴィラ=ロボス・室内オーケストラの世界
南米音楽祭 ’98
1998年(平成10年)6月7日(日)
自由学園明日館講堂
曲目について
ブラジル風バッハ第9番 (1945)
(バッキアーナス・ブラジレイラス)
Bachianas Brasileiras No.9
ピアニストであった叔母や父に感化されて少年時代から生涯J.S.バッハを敬愛しつづけたヴィラ=ロボスは、バッハの作風、その技法と精神を故国ブラジルの民族音楽と溶け合わせ、自分にしか書けない音楽を作曲したいと願い、それが通称<プラジル風バッハ>の連作となって実を結んだ。曲について忠実に訳せば「ブラジル風のスタイルによるバッハへの捧げ物たち」となる。43才から58才までの15年間に書かれた9曲は、初期の頃の冒険性と野性味はやや薄れ調和と落着きを感じさせる円熟期の連作である。最後の9番は当初“声のオーケストラ”として思い描かれたが、演奏至難なこともあって弦楽合奏でもよいと作曲者自身が認めている。曲はバッハ風に「プレリユードとフーガ」からなり、続けて演奏される。フーガの8分の11拍子という変拍子がブラジル風な踊動感を表わしている。
ソプラノサックスと小オーケストラのための
“幻想曲” (1948)
Fantasia para
Saxophone Soprano e Pequena Orquestra
リオの民衆音楽<ショーロ>によく使われたサクソフォーンは、ヴィラ=ロボスが早くから愛着を持っていた楽器のひとつで、その性能と魅カを見事に括かした筆ぶりが作品の中に見て取れる。独奏のバックを弦楽合奏とホルンに絞っているのは、ソプラノサックスの音彩を活かす上で極めて効果的。さらに彼の音楽に特徴的なメロディアスな抒情味とリズミカルな活気の振幅が、存分に発揮され現代的な要素を持ちながらも、大変聴きやすくユニークな作品である。フランスのサックスの名手マルセル・ミュール捧げられた。
弦楽オーケストラのための“組曲” (1912)
(本邦初演)
Suite para Quinteto Duplo de Cordas
<Tímida(内気な)>、<Misteriosa(神秘的)>、 <Inqiuieta(不安な)>と各楽章につけられた副題は妙にしんみりとしているが、当時25歳だった彼の最初の妻ルシーリアとの恋愛中の心境が写し出されているのではないかと想像される。一方この頃から、彼はあらゆる分野にわたって積極的に作品を発表し始めるが、この作品はどちらかといえば後期ロマン派の色彩が濃く、彼らしい野趣で民謡的な個性はまだ確立されていない。その点で習作的な意味合いが強い作品である。
1915年7月にリオで初演され彼もチェロを弾いて演奏に加わったという。第1楽章のもの悲しいテーマは、形を変えながら全楽章に聴かれ、連続する不協和音はあたかもワーグナーの無調性を思わせ不安感を漂わせる。第2楽章は2拍子で1楽章に似た雰囲気で展開している。唯一第3楽章が軽快なテンポをもち、中間部に前の楽章を思い起こさせる部分がおかれ、後半は主題の形を圧縮しそのまま一気に追い込んで華麗にクライマックスを迎えて終わる。
ファゴットと弦楽合奏による
“七つの音のシランダ(輪舞)” (1933)
(本邦初演)
Ciranda das Sete Notas
(Fagote e Orquestra de Cordas)
<シランダ>とはブラジル民俗音楽の一形式名で、子供が輪になってする歌と踊り、今日では“わらべ唄”(日本でいう“かごめかごめ”のようなもの)として伝わるものが多い。だが、この作品ではブラジルの“わらべ唄”と内容的に密接な関わりを持っているとは思えない、なぜ<シランダ>なのだろうか?ここでいう<シランダ>とは、ヴィラ=ロボスが確立した彼流の<シランダ形式>という意味であろう。ピアノ曲集《シランダス》(1926年作)と同様、三部形式をとりメインとなる中間部を包み込むような形で序奏と結尾を配置し、序奏から中間、中間から結尾に移行するとき唐突に雰囲気が変わるのに、不思議と違和感を与えないのが彼の<シランダ>に共通する特色である。曲はタイトルの示す通り「七つの音→ドレミファソラシ」で始まる。独奏ファゴットに高度な技術を要求し、脇役である弦楽器と対等に歌わせたり、時に不協和音の効果を有効に活用したりするなど内容的に変化に富み、聴く人を一瞬たりとも飽きさせない工夫があるのはさすが、素朴だが躍動感溢れる楽しい佳作である。
市村由布子
Yuko Ichimura
🎧 CDのご紹介
「ヴィラ=ロボス 室内オーケストラの世界」(1998.6.7)
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