日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙㉖(1998.6.7)

村方千之氏からの手紙㉖(1998.6.7)

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之氏からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

ヴィラ=ロボス・室内オーケストラの世界
<南米音楽祭‘98>
1998[平成10]年6月7日
自由学園明日館講堂
主催:日本ヴィラ=ロボス協会
後援:ブラジル大使館、日本ブラジル中央協会

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【チラシから】

華麗なるソプラノサックスのファンタジー
躍動感溢れるファゴットのラプソディ
情感豊かに心に響く弦楽オーケストラ

ヴィラ=ロボスは19世紀に生まれ、20世紀前半に活躍したブラジルの生んだ世界的な偉大な作曲家である。超人的なバイタリティと情熱溢れる創作欲から生み出した作品はおよそ2000曲、オペラ、交響曲、宗教曲、室内楽、声楽曲、器楽曲、ギターの小品まで、音楽のあらゆる分野にわたっている。ヴィラ=ロボスは殆ど独学で作曲を学び、敬愛したバッハと、土着の音楽に目を向けまったく新鮮なインスピレーションを駆使して作曲した。作品にはブラジルの大地に根差す野趣な躍動感、人間味豊かな雄大なロマンが描かれ、聴くものの心を魅了し共感を与える。愛、郷愁、ロマンといった誰もがもっている人間の本質的な心を、ヴィラ=ロボスは作品を通して自然に伝えている。

このコンサートは今まで演奏される機会の少なかった室内オーケストラの作品から本邦初演の2曲を含め、変化あるプログラミングが組まれている。華麗なソプラノサクソフォーンのファンタジー、躍動感溢れるファゴットのラプソディ、情感豊かに心に響く弦楽オーケストラの奏でるコラールなど、演奏者と聴衆の共感がより深く広がることを願っている。

村方 千之
(日本ヴィラ=ロボス協会々長)


【プログラムノートから】

ヴィラ=ロボスと日本

来年はヴィラ=ロボス歿後40年目に当たる。ヴィラ=ロボスが歿した1959年ごろ、日本は敗戦後の混乱からようやく立ち直り、音楽界もヨーロッパやアメリカからやって来はじめた世界的な音楽家に刺激され活気をとり戻しつつあった時代であったが、この南米の作曲家ヴィラ=ロボスの死に関心が向けられる環境ではなかった。ただ、古くからヴィラ=ロボスのギター作品を敬愛してきたクラシックギターを愛好する人たちの間や、ヴィラ=ロボスを知るわずかな人たちは彼の死を密やかに惜しんだに違いない。

私がヴィラ=ロボスの音楽に因縁の出会いをしたのは、それから16年後の1975年、リオデジャネイロで開催されたヴィラ=ロボス国際指揮者コンクールに参加、受賞してからのことである。

丁度この頃、東芝EMIから出された一枚のレコード「バッキャーナス・ブラジレイラス」は“ブラジル風バッハ”第2番(オーケストラ)、第5番(チェロ合奏と声楽)、第6番(室内楽)、第9番(弦楽合奏)の4曲が収められた聴き応えのあるもので、魅力的なパリ管弦楽団の演奏がレコードファンの間に話題になり、クラシックギターの作曲家くらいにしか思われていなかったヴィラ=ロボスへの認識を大きく変える切っ掛けにはなった。だからといって欧米文化思考の強い日本の音楽家やクラシック愛好家が、急にヴィラ=ロボスへ関心を向けると言う訳もなく、コンサートのプログラムに彼の作品がのるには、まだまだ時間がかかったのである。

私は帰国後、77年春に行なった受賞記念コンサート《ブラジル風バッハ第9番》を初演、その後ブラジル外務省、大使館の援助を得て行なった「ヴィラ=ロボス歿後20年記念コンサート」、3回にわたる「ヴィラ=ロボスの作品を聴くコンサート」などで《ブラジル風バッハ第5番、1番》《ノネット》などを初演、1986年に日本ヴィラ=ロボス協会が設立されてからは、1987年の5回の「生誕100年記念コンサート」、89年の「歿後30年記念コンサート」、毎年続けられてきた恒例の「南米音楽祭」などを通して、ヴィラ=ロボスのみならず南米の国々の知られざる曲を、多くの方々の協力によって初演、再演してきた。

最近ようやく演奏家、音楽学生、そしてクラシック愛好家の間にもヴィラ=ロボスへの関心が芽生えてきたと言われる。大変嬉しいことだが、これとて私がヴィラ=ロボスの音楽と出会ってからさらに23年がたっている。いま、ヴィラ=ロボスのピアノ曲集の6冊目が出版され、また同じブラジルの作曲家エルネスト・ナザレのピアノ曲集が3冊出版され、直接作品に触れる機会ができることでさらに彼への関心を高めてくれることだろう。ただ、ヴィラ=ロボスと言えば《ショーロス》《ブラジル風バッハ》といったブラジル的なタイトルゆえに、ヨーロッパの音楽とは違ったリズムや響きの、変わった音楽を書いた作曲家だというイメージを持つむきがまだ少なくない。だが彼の残したあらゆるジャンルに亘る2000曲という膨大な数の作品には、まだまだ知られざる多くの名作があることを多くの人に知って欲しいものだ。

村方 千之
(会長、指揮者)


CDのご紹介
「ヴィラ=ロボス 室内オーケストラの世界」
(1998.6.7)

村方千之オフィシャルウェブサイト

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※作品解説は市村由布子が執筆

◆このプログラムノートには、下記の寄稿文が掲載されております。

フェルナンド・ギマランイス・ヘイス(駐日ブラジル大使):「メッセージ」


編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA