日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

2007.7.22 ヴィラ=ロボス生誕120年記念コンサート

ヴィラ=ロボス生誕120年記念コンサート
ピアノ・室内楽・弦楽オーケストラの世界
池袋 自由学園 明日館講堂
2007年7月22日(日)14時開演
主催:日本ヴィラ=ロボス協会
後援:ブラジル大使館・ブラジル銀行

エイトール・ヴィラ=ロボス
(1887,リオ ~ 1959,リオ)

バッキアーナス・ブラジレイラス第6番 (1938)

通称≪ブラジル風バッハ≫は、43歳から15年かけて多種多様な編成で合計9曲書かれた。≪第9番≫を除く各曲の楽章に“バッハ風”と“ブラジル風”の2つの題が付けられ、音楽の内容に忠実に訳すと“バッハ風のブラジルの楽曲集”となる。“バッハ風”と言っても、フーガも緻密なものではなく、楽想も全てオリジナルだが、そこにはバッハへの思いが深く込められている。≪第6番≫は珍しく小編成で、フルートとファゴットによる二重奏曲。短いながらも内容は濃く、管楽器奏者の間でも人気が高い。

ショーロス・ビス(アンコール)(1928)

“ショーロ”とは19世紀後半にリオで流行し、ギターやカヴァキーニョ(ブラジル風ウクレレ)などの弦楽器や管楽器の奏者が集まって即興演奏を楽しむ庶民的な音楽のことである。ヴィラ=ロボス自身も若い頃にギターを手に参加した経験を創作に生かし、≪ショーロス≫を10年かけて14曲発表した。次第に楽器編成も大きくなり、いよいよ完結しようとした頃に、彼は初心に返ってヴァイオリンとチェロというシンプルな形で作曲した。それをあえて≪15番≫とせず“ビス(アンコール)”とした。

アソービオ・ア・ジャート
(ジェット・ホイッスル)
(1950)

金切り声をあげるようにしてフルートが一音ずつ上昇していく第3楽章の終わり方が“ジェット・ホイッスル”(指をくわえてビービーと鳴らす口笛)に似ていることから、この曲名がつけられたのだろう。ヴィラ=ロボスは斬新な楽器の組み合わせを思いつく天才だった。それは単なる偶然の産物ではなく、楽器の特性をよく理解していなければできない。ここでは高音楽器のフルートと低音楽器のチェロの組み合わせによって、色鮮やかで騒々しくて幻想的な世界が繰り広げられている。

弦楽四重奏曲第5番 (1931)

ヴィラ=ロボスと言えば、特定の楽派や伝統的な書法に束縛されることを嫌う反骨精神の持ち主というイメージが強く、その彼が弦楽四重奏曲を17曲も書いたという事実には驚かされる。「最愛の楽器であるチェロの魅力を最大限に生かすためには、弦楽四重奏の形が一番ふさわしい」と彼は考えていたのかもしれない。習作的意味合いの強い≪第4番≫までを除き、どれも本格的で、彼にしてはかなり気まじめな作品が揃っている。ブラジルの童謡が次々に登場するのは≪第5番≫だけで、たとえその童謡を知らなくても素直に楽しめる内容になっている。

7つの音のシランダ (1933)

<シランダ>とは、子供達が輪になって踊りながら歌うブラジルの“輪踊り歌”のことである。作品中に“輪踊り唄”は直接引用されていないが、躍動感のあるリズムにはブラジルらしさが感じられる。曲はタイトルが示す通り、「7つの音 ドレミファソラシ」で始まり、一貫してこのテーマが流れ、最後も静かに「ドレミファソラシ」で終わる。主役のファゴットには、協奏曲のように難しい演奏技術と、幻想曲のように豊かな表現力が求められ、何度聴いても飽きない魅力が溢れている。

バッキアーナス・ブラジレイラス第4番から
前奏曲 (1941)

この前奏曲の旋律は人の心に染み入る宗教曲のようであり、おそらく多くの人々が理屈抜きで美しいと思えるものである。初めはピアノ独奏のために書かれ、10年後に弦楽合奏のために編曲された。≪第4番≫は今日のように単独で演奏されることも多く、≪ブラジル風バッハ≫の中では≪第1番≫、≪第5番≫と並ぶ代表作である。

市村由布子
Yuko Ichimura

※第2部の解説は光永浩一郎氏が執筆
(作曲家、ピアニスト)