日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

2017.12.16 ヴィラ=ロボス生誕130年記念 清水由香ピアノリサイタル 

解説 Program Notes

1.オデオン Odeon
エルネスト・ナザレ
Ernesto Nazareth (1863-1934)

ヴィラ=ロボスより少し前に活躍したナザレは、「ブラジルの魂を音楽で表した存在」として敬愛されています。ポピュラーとクラシック音楽の要素を生かした素朴で洒落た旋律は親しみやすく、ピアニストとしての71年の生涯に220曲余りものピアノ曲を残しました。《オデオン》は当時の知識人や上流階級の人々が出入りする「シネマ・オデオン」のロビーでピアノを弾き始めた頃の、ナザレの最高傑作。‟タンゴ・ブラジレイロ“とは、ハバネラ系のリズムを基調とした‟マシーシ(リオの下層階級のダンス)を、彼が優雅な音楽に変身させて名付けたものです。

2.ソナチネ Sonatina
エジーノ・クリーゲル
Edino Krieger (1928-)

1928年生まれ、ブラジルのクラシック音楽作曲家の長老格。1975年「第1回ヴィラ=ロボス国際指揮者コンクール」に参加した村方千之氏の指揮について、音楽評論家として新聞にコメントを執筆したことがご縁で、村方千之氏との人間関係はずっと続きました。1995年の日伯修好100年記念イベントの際に来日し、講演会「音で綴るブラジル音楽史の旅」の講師も務め、また同時期に、彼の《エストロ・アルモニコ》は村方千之による指揮で、日本初演となりました。現在、日本ヴィラ=ロボス協会の名誉会員になっていただいております。前衛音楽に傾倒した時期もありましたが、その後若い音楽家を育てるために、伝統的な手法に基づく作品も書きました。この《ソナチネ》はそのうちの一つで、2楽章からなります。

3.ショーロス第5番“ブラジルの魂”
Choros No.5  “Alma Brasileira”
エイトール・ヴィラ=ロボス
Heitor Villa-Lobos (1887-1959)

ヴィラ=ロボスは南米のみならず、20世紀を代表する作曲家の一人です。有名な《ショーロス》《ブラジル風バッハ》の他に、室内楽、歌曲、交響曲、オペラなど、1000曲以上の作品を残しました。まぎれもなく彼は「ブラジル音楽界の巨匠」です。ヴィラ=ロボスが10代の頃に<ショーロ(即興演奏を楽しむブラジルの大衆音楽)>のグループにギターで参加した時の経験をもとに書かれたのが、16曲ある《ショーロス》シリーズ。その第5番は“ブラジルの魂”という副題が示す通り、テーマはヨーロッパ風、根底に流れるリズムはアフリカ風、そして中間部はインディオ風・・・と、3つの民族の魂が込められています。

4.ブラジル風連作第2曲から
(シクロ・ブラジレイロ)
“セレナード歌いの印象”
Ciclo Brasileiro No.2 “Impressões Seresteiras”
エイトール・ヴィラ=ロボス
Heitor Villa-Lobos (1887-1959)

ヴィラ=ロボスの室内楽ソロ作品の中で、その作品数も多く、名曲ぞろいなのがピアノ曲。<ブラジル風>というその名の通り、民族的な要素を前面に出しているこの連作(4曲)は、仕事面でも最も充実した時期に書かれ、完成度が高い作品です。タイトルの“セレナード歌いSeresteirasとは、夜のリオの町の“セレスタ(セレナーデ)奏者”のこと。彼がまだ若い頃にギターを片手に彼らに加わった思い出が込められているといわれる、感傷的なブラジル風ワルツです。

市村由布子
Yuko Ichimura

🎧 清水由香さんのCDのご紹介

Yuka Shimizu:

Piano Brasil Embalada Pela Brisa do Rio (2017)