日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙⑤(1982.4.9)

村方千之氏からの手紙⑤

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

ヴィラ=ロボスの作品を聴く 特別コンサート<第3回>
“室内楽と歌、チェロオーケストラの夕べ”
1982[昭和57]年4月9日、中央会館

主催:ブラジル大使館 後援:ブラジル銀行、サンパウロ州立銀行、
ロイドブラジレイロ極東代表部、ブラジル国立製鉄会社、フロッタライン、
ブラジルコーヒー院、ウジミナス製鉄会社東京、ヴァリグ・ブラジル航空

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【チラシ】の内容から

プログラムによせて

ヴィラ=ロボスの膨大な数の作品からすれば、ほんの一部にすぎないが、このコンサートの第1回目ではオーケストラとギターの作品から、第2回目には管楽器の室内楽と合唱の作品から選んで紹介してきた。

今回は弦楽室内楽の作品から3曲声楽の作品から3曲、それに彼の代表作の一つである≪ブラジル風バッハ≫から2曲、主として弦楽作品を中心としたプログラムを組んで紹介する。

彼の弦楽作品は約40曲ほどあるが、その中からとくに民族的な色彩の強い特徴的な曲である、ヴァイオリンとチェロの二重奏による≪ショーロス≫と、次にはアカデミックなものに民族音楽的な要素が見事に調和した二つの作品≪弦楽四重奏第16番≫と、フルート、ハープ、弦三部による≪五重奏≫を選んだ。いずれもヴィラ=ロボスならではのユニークな響きの楽しいものばかりである。+
また、ヴィラ=ロボスはおよそ250曲に及ぶ声楽作品を残しているが、今回はよく歌われている作品の中から3曲を選んで紹介する。わが国では彼の歌曲が歌われることは殆んどないだけに興味深いものがある。

ヴィラ=ロボスが生涯バッハを敬愛し、その名にちなんだ、それぞれの形式や楽器編成の違う9曲の≪ブラジル風バッハ≫を作曲したのは有名な話であるが、今回はその中からチェロの八重奏で書かれた二つの作品を取り上げた。≪ブラジル風バッハ第5番≫はソプラノ独唱とチェロ八重奏の曲で、美しく魅惑的なソプラノの歌と重厚で躍動的なチェロ八重奏との見事な対比がこの曲の大きな魅力となっている。歌い手にとって一度は歌ってみたいと思うほどに魅力のある曲だと言われているが、難曲でわが国では完全な形で演奏される機会が少ない。

≪ブラジル風バッハ第1番≫はチェロのみの八重奏の曲で、ブラジル的な民族音楽の色彩の溢れる躍動する激しいリズムと、バッハ的な清廉な美しさとの調和が、チェロならではの楽器の特性によって見事に生かされた名作である。今回はとくに16人のチェロによって幅広い豪快な響きと深い情感を表現してみたいと思っている。

村方 千之(指揮者)

※濱田滋郎氏(音楽評論家)が曲目解説を執筆。


【プログラムノート】の内容から

ヴィラ=ロボスの室内楽(弦楽)作品表
MÚSICA DE CÂMARA(CORDAS)
※作品表は後日追記予定

弦楽室内楽作品について

ヴィラ=ロボスは弦楽室内楽作品を37曲残しているが、ここではその中から現在出版されている32曲を紹介した。この中で、まず注目されるのは17曲の≪弦楽四重奏曲≫で、28才からの2年間に初めの4曲が書かれ、残りの13曲は44才からの晩年にかけて書かれたものである。初期の4曲の中では1、3番が、後期の13曲の中からは5、6番、11、12番、15,16,17番の7曲が良く知られている。この他、今回のコンサートの曲目に加えることのできなかった作品の中では、比較的初期の頃の20代の後半に書いたチェロとピアノのための≪小さなソナタ≫≪チェロソナタ2番≫や、≪バイオリンソナタ≫の1、2、3番、それに≪ピアノトリオ2番≫、後期の作品である≪弦楽トリオ≫などが有名である。

彼は、多くの作品の中で民族的な素材を活用した彼独自の手法を試み、自由奔放な作風で数多くの作品を書いているが、この一連の弦楽室内楽作品ではむしろ伝統的なオーソドックスなスタイルを守りながら、個性豊かな内容の作品を書いているのが特徴的である。

(村方 千之)


ヴィラ=ロボスの声楽(独唱曲)の作品表
MÚSICA VOCAL
※作品表は後日追記予定

歌曲の作品について

ヴィラ=ロボスの歌曲は宗教曲なども加えると200曲以上もあると言われているが、ここではその中でも代表的なものを選んで24の作品を掲げた。この中でもっとも良く知られているのは、1923年から43年にかけて作曲された14曲からなる≪SERESTAS≫<セレナーデ集>である。次に1919年から35年にかけて書かれた≪CANÇÕES TÍPICAS BRASILEIRAS≫<純ブラジル風歌曲集>も13曲からなる曲集で特徴的な内容をもっている。

また、≪MODINHAS E CANÇÕES≫<モジーニャと歌>の第1集、第2集。≪MINIATURAS≫<ミニアチュア>。≪CANÇÃO DO AMOR≫<愛の歌>≪CANÇÕES INDÍGENAS≫<インディオの歌> ≪EU TE AMO」<われ汝を愛す>≪MELODIA SENTIMENTAL」<感傷的なメロディ>なども良く歌われている。この他≪SUÍTE PARA CANTO E VIOLINO≫<歌とヴァイオリンのための組曲>や、歌とフルート、クラリネット、チェロの組み合わせの≪POÈME DE L’ENFANT DE SA MÈRE≫<母と子の詩>なども Villa-Lobosらしい特徴的な作品として面白い。

彼は他の作品の分野でもそうしたように、土着のもの、民俗的なものを基に多くの歌曲を書いている。これに彼独特の人間的な豊かな情感と生来の自由奔放な作風が加わって、単に素朴な美しさのみではない奥行きの深いスケールの大きな歌を数多く残している。日本では今までに殆んど紹介される機会をもたなかったのは、むしろ残念なことであろう。

(村方 千之)


◆このプログラムノートには、
ロナルド・コスタ氏(駐日ブラジル大使)
アルミンダ・ヴィラ・ロボス(ヴィラ・ロボス記念館館長)からの寄稿文も掲載されております。

編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA