日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙⑥(1984.6.22)

村方千之氏からの手紙⑥

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

ヴィラ=ロボス・渡辺浦人
1984 [昭和59] 年6月22日、虎ノ門ホール
主催:社団法人 日本民族音楽協会
後援:ブラジル大使館

チラシを拡大する

【プログラムノートより】

ソプラノサックスと弦楽合奏のためのファンタジア
作曲 ヴィラ=ロボス

この曲は1948年パリで書かれ、サキソフォーンの名手として知られているマルセル・ミュールに捧げられた。

初演は1951年に彼の指揮のもとにリオ・デ・ジャネイロで行われ、好評を博した。活発に=おそく=非常に活々と、の三楽章で書かれており、ソプラノサックスかテノールサックスの独奏と弦楽合奏およびホルンという編成で書かれている。

15分足らずの小品だが、非常によくまとめられた作品で、サキソフォーンの性能を充分に活かして書かれており、サックス奏者のレパートリーとしてしばしば演奏される作品である。

ブラジル風バッハⅡ
作曲 ヴィラ=ロボス

「ブラジル風バッハ」と訳されているこの作品のシリーズは9曲あって、≪ショーロス≫と呼ばれている同様のシリーズで書かれた13曲の<ブラジル風セレナード>と共に、ヴィラ=ロボスが最も力を入れて練り上げた彼の代表的な作品である。

彼はピアニストであった叔母からの感化もあってはやくからバッハに深く傾倒し、終生創作上の大きな影響を受け、バッハについて彼は「その作品は全て種族をつなぐきずなであり、世界中の民族音楽の心の奥深く根差す共通の言葉をもつものである」と言っていた。そうしたバッハの作風と精神とをブラジルの音楽と融合させたいと願った彼の意図が、この≪ブラジル風バッハ≫の創作という形で達成されたものと思われる。

1930年につまり43才のときにチェロのみの8重奏というユニークな形でこのシリーズの≪第1番≫が書かれているが、彼は常に自分でなくては書けない音楽創造の世界を生涯求めていた人で、この≪ブラジル風バッハ≫の創作にあたってもその願いが強く反映されていることが感じられる。

≪第2番≫は、≪第1番≫と並んで発表され、イタリアのベニスで初演された。サックスやピアノ、民族打楽器を加えた1管編成の小オーケストラ用に書かれているが、その豊かな色彩感と響きは、まさに彼の見事な管弦楽法の魔術であるという他はない。曲はバッハの組曲風に4つの曲からできているが、いずれもブラジル民族音楽から素材を得ており、第1楽章の“カパドシオ”とは、リオの下町の無頼な伊達者のことで、この楽章では彼らが体をゆすりながら町を練り歩いている風情を表わしている。第2、第3楽章では黒人たちの間に伝わる密教の踊りの情景を思わせる部分があり、第4楽章はブラジルの奥地を走る小さな汽車をユーモラスに、また郷愁とをもって見事に描写している。

村方 千之

編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA