日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙㉛(2009.11.15)

村方千之氏からの手紙㉛(2009.11.15)

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之氏からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

H.ヴィラ=ロボス没後50年記念特別コンサート
ブラジルの大地が生んだ野趣とロマンの音楽家
2009[平成21]年11月15日 自由学園明日館講堂
主催:日本ヴィラ=ロボス協会

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【チラシから】

ヴィラ=ロボスの音楽よ、永遠に!

日本で初めて、ヴィラ=ロボスのオーケストラの作品が演奏されたのは、ヴィラ=ロボス没後20年記念コンサートが一ツ橋の教育会館で行われた時であった。ブラジル大使館から私の処への要請があり「今年は、世界中でヴィラ=ロボスの作品が演奏されている。日本でも是非、ヴィラ=ロボスの作品を演奏するコンサートを開いて欲しい」と、11月の半ばに言われ、会場の準備、オーケストラの交渉などは大変ではあったが、暮も押迫った12月28日に私の指揮でコンサートは行われた。年末の一番忙しいときに、聴きに来る人が居るだろうかと心配したが、会場は一杯になり、日本では初演となるヴィラ=ロボスのコンサートにこんなに多くの人が興味を抱いたことに感動させられた。翌年1月13日の朝刊にエッセイスト清岡卓行氏の記事が載せられ「日本でヴィラ=ロボスのオーケストラ作品を生で聴くことが出来るとは思ってもいなかった。この夜は久々に幸福感に充たされた」と。

ところで今から34年前、リオ・デ・ジャネイロで行われた第一回ヴィラ=ロボス国際指揮者コンクールに参加し賞を与えられた私は、これに応えるために、日本で可能な限りヴィラ=ロボスの作品を、より多く演奏したいと心掛け、実行してきた。今日ここにヴィラ=ロボス没後50年のコンサートを開催するに当たり、あれからもう30年が過ぎたのだと思うと、この間の様々な思いが次々と湧いてきて感慨無量である。

さて、私も今や大きく年を重ねてきた。これを機にこの役割を次の代の人々に譲りたいと思っている。ヴィラ=ロボスの名が、更に永遠に愛し続けられることを祈りつつ。

日本ヴィラ=ロボス協会々長
村方 千之


【プログラムノートから】

ヴィラ=ロボスよ!永遠に

ヴィラ=ロボスの音楽の素材となっているものは、彼の祖国ブラジルの民族音楽であるが、その精神的な基盤はバッハの音楽的精神だ、と彼自らが述べている。彼の音楽のもっとも大きな魅力は、詩情あふれる野性的な独特の個性にあり、エキゾチックで奇妙に響く調べの中に、激しいブラジルの魂の躍動感を伝えている。作品の中にある、バイタリティに溢れた自由奔放さは、ときに構成的な弱点を示すこともあるが、彼の音楽が聴き手を魅了するのは、その純粋さと気迫、スケールの大きな独自の、新鮮な素晴らしいインスピレーションにある。「ヴィラ=ロボスの音楽はいつ聴いても、何か新しい発見をもたらす不思議な魅力をもっている」と、かつてヴィラ=ロボスの親しい友人であったピアノの巨匠ルビンシュタインは語っている。

生涯に2000曲近い作品を残したヴィラ=ロボスのような作曲家は、かのバッハ以外には見当たらない。私は1975年に初めてブラジルに渡り、ヴィラ=ロボスを知って以来今日までの34年間の間、彼の音楽の演奏を率先して心掛け、協会を設立し、ヴィラ=ロボスの日本に於ける啓蒙に努めてきた。ヴィラ=ロボス没後50年を記念する今年、日本では多くの音楽家をはじめ音楽愛好家が、記念のコンサートを企画し、彼の音楽が広く多くの人々に知られる機会をもつことになった。これは非常に喜ばしい事だと思う。「私の作品は後世の人々への手紙である」と、ヴィラ=ロボスは言い残している。これからも、さらに多くの人々が彼の音楽に触れる機会をもつことを願っている。

2009年11月
日本ヴィラ=ロボス協会々長
指揮者 村方 千之


※作品解説は市村由布子が執筆


編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA