日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙⑦(1987.3.6)

村方千之氏からの手紙⑦

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

ヴィラ=ロボス 生誕100年記念特別演奏会<第1回>
“室内楽・ピアノ・ギター 歌とチェロオーケストラの夕べ”プログラム
1987 [昭和62] 年3月6日 虎ノ門ホール
主催:日本ヴィラ=ロボス協会
後援:ブラジル大使館、ブラジル中央協会
協賛:ヴァリグ・ブラジル航空、ブラジル銀行東京支店

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【チラシから】

新たな共感を呼ぶヴィラ=ロボスの音楽

一昨年のユネスコの国際評議会音楽部会の総会では1987年をヴィラ=ロボスの年とすることが決議され世界各地でそのための催しを行うことが話合われたという。また昨秋ヴィラ=ロボスの生誕100年を前にして地元であるリオ・デ・ジャネイロの新聞は一面全体を使って彼の業績をたたえ、1987年にはアメリカやヨーロッパをはじめ世界の各地でヴィラ=ロボスのフェスティバルが催されること、ニューヨークではすでに11月からフェスティバルが始められ、向う一年間ヴィラ=ロボスのコンサートが様々な形で続けられることを報じている。ブラジルを母国とする野趣とロマンの作曲家であるH.ヴィラ=ロボスは72年の生涯にその超人的で豊じょうな創造力によって、交響曲、管絃楽曲などの大曲から、室内楽曲、ピアノ曲をはじめ歌曲やギター曲などの小品にいたるあらゆる分野に筆を染め、およそ1000曲を越す作品を残しているが、いま世界で著作権収入の最も多いのはヴィラ=ロボスだと言われるほどに彼の作品は世界で広く演奏され親しまれているのである。ヴィラ=ロボスの音楽の魅力は何と言っても人間味溢れる情感の深さにあると言ってよい。まさに今の時代が失おうとしている貴重なものを気取らない率直さで力づよく訴えてくる。時代を越え、言葉をこえて真のロマンが新たな共感をもって蘇ってくるのである。私はこの10年ほどの間に幾度かヴィラ=ロボスのコンサートを行い作品の紹介に力を入れてきたが、今回このヴィラ=ロボス生誕100年を前に日本ヴィラ=ロボス協会が設立され、この作曲家の作品を深く愛し共感をもっている人々の繋がりの場をもてることになった。これからはさらに同志の輪を広げヴィラ=ロボスの作品がもっと多くの人々のものとなることを願っている。今年は五回の「日本ヴィラ=ロボス協会」主催のコンサートを通して更に多くの作品を音楽ファンの間に紹介できることを楽しみにしている。

日本ヴィラ=ロボス協会々長
村方 千之(指揮者)


【プログラムノートから】

ごあいさつ

ブラジルの生んだ世界的な作曲家であるエイトール・ヴィラ=ロボスの生誕100年にあたり、この度日本ヴィラ=ロボス協会によってこの様な記念のコンサートをもつことができますことは誠に大きな喜びです。

ブラジルは日本からは距離のうえでは最も遠い国ではありますが、多くの同朋が移り住みこの国の発展のために素晴らしい実績を上げてきたことなどを通して、私どもはこの国をむしろ親しみを感じる最も近い国の様に思うのです。そのブラジルの広大な大地から生まれた野趣とロマンのヴィラ=ロボスの音楽は、その気取りのない人間的な率直さでストレートに聴くものの心を魅了します。一度聴くと虜になってしまうとはヴィラ=ロボスファンの共通した感想ですが、残念ながら今までわが国では彼の音楽に接する機会があまり多くはありませんでした。

生誕百年を記念に協会では4回のコンサートをおこないます。そしてまた沢山の演奏家が今年は彼の作品を取上げることでしょう。この機会に是非とも、もっと多くの音楽ファンの方達にヴィラ=ロボスの音楽を聴いていただき、その豊かな情感にふれて戴きたいと願っています。

日本ヴィラ=ロボス協会会長
Presidente da Associação
村方 千之

 


ヴィラ=ロボスの室内楽(弦楽)作品表
MÚSICA DE CÂMARA(CORDAS)
※作品表は後日追加予定

弦楽室内楽作品について

ヴィラ=ロボスは弦楽室内楽作品を37曲残しているが、ここではその中から現在出版されている32曲を紹介した。この中で、まず注目されるのは17曲の≪弦楽四重奏曲≫で、28才からの2年間に初めの4曲が書かれ、残りの13曲は44才から晩年にかけて書かれたものである。初期の4曲の中では1、3番が、後期の13曲の中からは5、6番、11、12番、15、16、17番の7曲がよく知られている。この他、今回のコンサートの曲目に加えることのできなかった作品の中では、比較的初期の頃の20代の後半に書いたチェロやピアノのための≪小さなソナタ≫≪チェロソナタ第2番≫や、≪ヴァイオリンソナタ≫の1、2、3番、それに≪ピアノトリオ第2番≫、後期の作品である≪弦楽トリオ≫などが有名である。

彼は、多くの作品の中で民族的な素材を活用した彼独自の手法を試み、自由奔放な作風で数多くの作品を書いているのが特徴的である。

( 村方 千之 )


ヴィラ=ロボスの室内楽(木管)作品表
MÚSICA DE CÂMARA(SOPROS)
※作品表は後日追加予定

管楽器(木管楽器)のための作品について

ヴィラ=ロボスの室内楽の作品は、全曲で50曲近く書かれているが、その中で木管楽器のみで編成されているものはここに挙げた13曲である。この他に弦楽器と管楽器とを組み合わせたものが2曲あるから、合計15曲が木管楽器の室内楽曲として残されている。その殆どがフランスのMAX ESCHIG社から出版されており、いつでも入手できる。

彼の室内楽作品は作品全体からみて比較的佳作が多く、ヨーロッパやアメリカではしばしば演奏されている。特に2曲以外は30代から40代にかけてのパリ時代を中心に書かれたもので、内容も意欲的であり、技術的にもかなり高度なものが多いのも特徴的である。

( 村方 千之 )


ヴィラ=ロボスの声楽(独唱曲)作品表
MÚSICA DE VOCAL
※作品表は後日追加予定

歌曲の作品について

ヴィラ=ロボスの歌曲は宗教曲なども加えると200曲以上もあると言われているが、ここではその中で代表的なものを選んで24の作品を掲げた。この中でもっともよく知られているのは、1923年から43年にかけて作曲された14曲からなる“Serestas” 《セレナーデ集》である。次に1919年から30年にかけて書かれた“Canções Típicas Brasileiras”《純ブラジル風歌曲集》も13曲からなる曲集で特徴的な内容をもっている。

また、“Modinhas e Canções”≪モジーニャと歌≫の第1集、第2集。“Miniaturas ”≪ミニアチュア≫。“Canção do Amor”≪愛の歌≫、“Canções Indígenas”≪インディオの歌≫、“Eu Te Amo”≪われ汝を愛す≫、“Melodia Sentimental”≪感傷的なメロディ≫などもよく歌われている。この他、“Suíte para Canto e Violino”≪歌とバイオリンのための組曲≫や、歌とフルート、クラリネット、チェロの組み合わせの“Poème de L’enfant et de sa Mère”≪母と子の詩≫などもヴィラ=ロボスらしい特徴的な作品として面白い。

彼は他の作品の分野でもそうしたように、土着のもの、民族的なものを基に多くの歌曲を書いている。これに彼独特の人間的な豊かな情感と生来の自由奔放な作風が加わって、単に素朴な美しさのみではない奥行きの深いスケールの大きな歌を数多く残している。日本では今までに殆ど紹介される機会をもたなかったのは、むしろ残念なことであろう。

( 村方 千之 )


イヴァン・カナブラーヴァ氏(ブラジル臨時代理大使
ツリビオ・サントス氏(ヴィラ=ロボス博物館館長)

上記のお二人からメッセージが寄せられております。

濱田滋郎氏(音楽評論家):
「ヴィラ=ロボス小伝」「曲目についてのメモ」「ヴィラ=ロボスのギター曲作品表:ヴィラ=ロボスのギター作品について」

宮崎幸夫氏(ピアニスト)
「ヴィラ=ロボスのピアノ曲作品表:ピアノ作品について」

上記のお二人から、ヴィラ=ロボスについて作品表と解説が寄せられております。


編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA