日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

2023.1.8【レポート】清水由香ピアノリサイタル~ブラジル リオの風にのせて~

🎼~ブラジル リオの風にのせて
~清水由香ピアノリサイタルを聴いて(
2023.1.8)

市村由布子
YUKO ICHIMURA

コンサート情報

3年ぶりに清水由香さんの演奏会。3年前と同じ場所、スタンウェイ常設の音楽ホール、日仏文化協会汐留ホールでの開催。ゲスト出演はクラリネット奏者の小坂真紀さん、2回目の共演。会場はほぼ満席。扉を開いて会場に入ると、そこはもうブラジル!🇧🇷

ブラジルのクラシック音楽の魅力をたっぷり味わいました。ご馳走さまでした。ピアノソロの作品が14曲。クラリネットとのデュオが3曲。全部で17曲。ブラジルの作曲家として有名なヴィラ=ロボス、ナザレ、ミニョーネの他、ゴンザーガ、コルチス、ラセルダ、シケイラ、ニャタリ、クリーゲルといった日本では演奏される機会が少ない6名のブラジルの作曲家の作品もお披露目。なんと贅沢なプログラム♫

この日のハイライトは、ブラジルの国歌のメロディーを使ってゴットシャルク(アメリカ人、ブラジル没)が作曲した《幻想曲》。ブラジルのクラシック音楽に魅せられて1997年にリオに渡った由香さんはブラジルで音楽活動を続けて25年。由香さんにとって、もはや“第二の祖国”となったブラジルへの想いが込められ、気迫に満ちた演奏に客席の誰もが心を打たれました。

3人の作曲家(コルチス、ラセルダ、シケイラ)によって、クラリネットとピアノのために書かれた作品はそれぞれ20世紀の終わりに書かれたもので、私も初めて知るものばかり。私のお気に入り、シケイラの《ソナチネ》は3つの楽章からなる個性的な作品で、3楽章の出だしの小坂真紀さんのクラリネットのパワーにノックアウトされました。超絶技巧が求められるこの作品をニコニコしながら演奏してくれた小坂真紀さんに脱帽!

アンコールはフランス の作曲家ミヨーの《スカラムーシュ》の第3曲“Brazileira(ブラジルの女)”。ミヨーはブラジルに駐在する外交官の秘書としてリオに2年間滞在し、ヴィラ=ロボスとも親交を深め、ブラジルのクラシック音楽やポップスの影響を共に受け、ブラジル独特のリズムを取り入れた作品をいくつも残しました。その一つがこの作品。オリジナルは2台ピアノ用ですが、サクソフォン奏者にも好んで演奏されています(この日はクラリネットで)。ノリノリのリズムに乗ったアンコールにも、たくさんの拍手が送られました👏👏👏

在東京ブラジル総領事のギリェルミ氏(Guilherme De Aguiar Patriota)、在リオデジャネイロ日本国総領事の橋場健氏もご来場。終演後、お二人を由香さんが会場のお客様にご紹介。お二方と並んだ席に座って演奏を楽しんだ私も、プログラムノート執筆者として紹介していただきました。プログラムノートを作成するにあたって、ポルトガル語を指導していただいているジュリオ先生にたくさんお世話なりました。当日はコンサート会場のセッティング、電子チケットの受付、譜面台の出し入れなど、まるでホールの職員のように(笑)テキパキと働いてくださったジュリオ先生にも感謝。

由香さんがブラジルに行くきっかけとなり、一番大切にされてきたナザレの《オデオン》。今回の《オデオン》はいつもよりさらにドラマチックでした。約3分という短い曲中にいくつもの人生を見るような演奏でした。一番美しいと感じたのはナザレの《ノクターン》。ラストのピアニッシモの部分が極めて繊細で美しく、キラキラ輝く何かが見えるようでした。由香さんのヴィラ=ロボスの《赤ちゃんの家族》シリーズを聴くのは初めてでした。前から弾いてほしいとリクエストしていたので、ようやく願いが叶いました。特に私が気に入ったのは《カボクリーニャ》。ゆったりとしたメロディーに耳を傾けていると、私にとって懐かしいブラジルに連れて行ってもらえたような感覚に包まれました。ヴィラ=ロボスの《ブラジル風バッハ第4番の前奏曲は由香さんの定番で、由香さんの師匠のクララ・スヴェルナールClara Svernar Randolph先生譲りだと思われる“和音を響かせる奏法”が変わらず素敵で、最後の和音をいつまでも聴いていたいと思うほど美しかった。ニャタリの《ピシンギンニャにバラを🌹》 は由香さんにぴったりだろうと予想していました。予想的中!由香さんのクリーゲルの《ソナチネ》はこれまでにも何度か聴く機会がありました。「この曲を弾くのが好き」という由香さんらしく、作品の魅力が十分に伝わってきました。1か月前に天国に旅立たれたクリーゲル氏への追悼の意が込められた深みのある演奏でした。

1986年に日本ヴィラ=ロボス協会を創設した村方千之先生(故人)への感謝の気持ちを由香さんが演奏の合間に皆さんに語ってくれました。“由香さんがブラジルの曲を日本の皆さんの前で演奏し、私がその解説を書く”という活動をこれからも地道に続けていくことができたら村方先生も天国で喜んでくださると信じております。 “Yuka&Yuko”コンビで、これからも頑張ります!

ブラジルには魅力的なクラシック音楽の作品がまだまだたくさんあるそうです。由香さんが「いいな」と思った作品をこれからも日本の皆さんに紹介してもらえたらとても嬉しいです。“リオの風”が吹くのを今から心待ちにしています🌊🌴

 

市村由布子
Yuko Ichimura