日本におけるヴィラ=ロボス研究の先駆者、村方千之氏の文章を公開

村方千之氏からの手紙⑨(1987.7.13)

村方千之氏からの手紙⑨

村方千之氏がプログラムノートに執筆した文章を抜粋し、「村方千之からの手紙」というシリーズでご紹介しております。

ヴィラ=ロボス 生誕100年記念特別演奏会<第3回>
“講演とギター・歌曲の夕べ”
1987 [昭和62] 年7月13日 バリオホール
主催:日本ヴィラ=ロボス協会

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【チラシから】

いまこそ、真のヴィラ=ロボスの魅力に触れよう

ブラジルの世界的作曲家ヴィラ=ロボスについての日本での一般的な認識は、本来の世界的な評価に比べると残念ながらたいへん低い、と言うよりも音楽ファンばかりではなく専門家の間でさえもほとんど知られていないと言った方がよいかもしれない。

だが、今年はちょうどヴィラ=ロボスの生誕100年記念の年にあたる様なことから、ユネスコの国際音楽評議会の呼びかけもあってブラジルは勿論のこと世界の各地、とくにアメリカやフランスを中心にヴィラ=ロボスを記念するフェスティバルやコンサートが盛んに行われており、日本でもこれに呼応して日本ヴィラ=ロボス協会の主催で今年中に5回のコンサートが開催されるが、すでに第1回目は3月6日に第2回目は5月8日にそれぞれ終了し、いづれも予想以上に関心を集めて会場は満員の盛況であった。

ところで、昭和8年つまり今から54年前にすでにこのヴィラ=ロボスについて評伝を書いた伊藤昇さんと言う方がおられるが、ヴィラ=ロボスがまだ46才だった頃のことだから、その先見の明には敬服せざるを得ない。36才でパリに渡ったヴィラ=ロボスはすでに当時から特異な作曲家としてヨーロッパでは注目された存在で、このことが当時の日本にまでも伝わっていたわけである。だが日本ではその後戦前、戦後を通じて約半世紀ほどの間はクラシックギターを弾く人達の間だけでヴィラ=ロボスが知られていたに止まり、なぜかいわゆるクラシックの分野で彼の曲が演奏される様なことは殆どなかった。

19世紀から20世紀にかけて大きく変貌をとげたドビュッシーにはじまる近代音楽の流れのなかにはシェーンベルク、バルトーク、ストラビンスキーなどをはじめとする多くの個性的な作曲家が活躍し時代の本流を進めていった。だがヴィラ=ロボスはその中にあって自国ブラジルをこよなく愛し、ほとんど独学で身につけた独自の想像の世界に独走していった特異な存在であったことから、ヨーロッパ指向の強い日本の音楽界では、そうしたヴィラ=ロボスにあまり馴染めなかったのであろう。だが、いま初めて彼の音楽に触れたときにむしろ新鮮な深い共感を触発されない人はいないはずである。

彼の曲には解説はいらない、心を開いて耳を傾けているだけでストレートに聴くものの魂にとび込んでくる様な人間的な情感にあふれている。取りつくろったり、飾立てたりした構えたものがないところにヴィラ=ロボスの音楽の真の魅力が在る。

さて、今回の記念講演会はヴィラ=ロボスの音楽の背景にある人間ヴィラ=ロボスについて知って戴くのには絶好の機会で、講演者の濱田滋郎さんは古くからヴィラ=ロボスについて深く研究してこられた第一人者であり、きっと興味深い話が沢山聞けるものと大変期待している。

日本ヴィラ=ロボス協会々長
村方 千之(指揮者)


【プログラムノートから】

ごあいさつ

ヴィラ=ロボス生誕100年を記念して行なっております五回の連続コンサートの第三回を開催するにあたり、本日は多数の方々のご来聴を賜りましたことを、厚くお礼申し上げます。第一回、第二回と盛会にまた好評のうちに終了いたしましたが、これもまた多くの方々の温かいご声援の賜と存じ、ここに改めて心から感謝を申し上げる次第で御座います。この第三回はヴィラ=ロボスの生涯と作品をテーマとした写真、楽譜、レコードなどの展示会と濱田滋郎氏の講演が行なわれますが、展示されております写真と講演に使われますスライドはこの五月に渡伯されました本会の役員でもあります松田俊三氏が、ヴィラ=ロボス記念館の提供を受け今回のために持ち帰り戴いたもので、幼少の頃のものや彼のバイタリティ溢れた活動の様子がしのばれる数々の写真には大変に珍しいものが多く、また彼自身の手書きの楽譜のコピーなどをはじめ今までに余り見掛けなかった文献やレコードも陳列されていますので、ヴィラ=ロボスファンにとっては大変興味深いものがあるものと存じます。

また、わが国でヴィラ=ロボスの生涯や作品についてこの様な会が持たれることも初めてのことでもあり、大変に意義のあることだと思っておりますので、どうぞくまなく御覧ください。また今回は、今までにご自分のリサイタルで続けてヴィラ=ロボスの作品を取上げてこられたソプラノの打田瑠美さんの歌と、ギター界ではすでにその名の高い福田進一さんがヴィラ=ロボスの作品を演奏して下さいます。どうぞ最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。

なお、来たる9月30日には第四回目の“室内楽と合唱の夕べ”、11月7日には第五回目で連続コンサートのフィナーレとなる“オーケストラと合唱、協奏曲の夕べ”が、盛大に開催される予定で在ります。どうぞお誘い合わせのうえ是非ともご来聴を賜りたくお待ち申し上げております。

1987年7月
日本ヴィラ=ロボス協会会長
村方 千之

※濱田滋郎氏(音楽評論家)が曲目解説を執筆


◆このプログラムノートには、下記の皆様の寄稿文が掲載されております。

 

カルロスA.B.ブエーノ(駐日ブラジル大使):「メッセージ」
トゥリビオ・サントス(ヴィラ=ロボス博物館館長):「メッセージ」
濱田滋郎(音楽評論家):「小コンサート:曲目メモ」「歌詞対訳」「ヴィラ=ロボス略年譜(ヴィラ=ロボス記念館編による)」「ヴィラ=ロボス:主要作品一覧」
福田進一(ギタリスト):「ヴィラ=ロボス、そのギター音楽への熱き思い」
打田瑠美(ソプラノ歌手):「ヴィラ=ロボスの歌曲」

編集:市村由布子
Editora: YUKO ICHIMURA